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媚薬
薬師丸隼人は、手にした小さなボトルを人目につかないように握り込むと、すぐにポケットに入れて、クラブのトイレを出た。
後ろを振り返って、売人の顔を見るなんてへまはしない。
見たら、きっと、やっぱりやめとくと、小びんを突きつけて、金を返して欲しくなるだろう。
今だって、本当に効くのかよ?もったいねぇよな。1回分で、5000円ってありか?なんて、ぐらついているのだ。
ことの始まりは、俺が彼女の美玖とこのクラブに入って踊ったあと、隅っこの席でイチャイチャしだしたことにさかのぼる。
俺は美玖をその気にさせるため、小さなテーブルの下で、悪戯を仕掛けた。
最初は美玖も太ももに這う手を払いのけていたが、払いのけた先から、諦めることなく蠢いて上ってくる手に、意識を持っていかれる様子を、俺は美玖に認めさせてやりたくなった。
その気になってるんだろ?というのを婉曲にして、感じてる?と耳もとで囁きながら、息を吹きかけると、美玖は身震いをして、今夜の目的に向かって、心も身体も俺に操られるままに、着々よ準備を始めたようだ。
前技をベッドに入ってからおもむろに始めるなんて、素人のやることだろ?デートの瞬間から雰囲気作りをするのが大切なんだ。
その証拠に、カクテルをほんの少しふくんだだけの美玖の頬がほんのりと赤らんで、目がトロンと期待で潤んでいる。
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