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「あ、そういえばさ、おまえ、うちのたまきあいこに会わないか?」
「えっ、たまあい先生!」
三田村の顔は一気に緩んだが、すぐに顔はキッと引き締めた。
「やめとく。いくら玉城くんのお姉さんだったとしても、先生にプライベートで会うのは、たまあい先生ファンとして、フェアじゃないし」
「そういうと思った」
三田村らしい回答だな、と思う。この短い間に三田村の考えや言いそうな言葉がわかるようになってきた気がする。
「でも単刀直入に言う。姉ちゃんがおまえを連れてこいって」
「え、ええっ」
「きっといろんなポーズやらされるのが目に見えてるから、絶対に嫌だってことわったんだけど」
「いろいろやらされるって何?」
三田村が不安げに、おそるおそる聞いてくる。
「姉ちゃん、あのときの俺らの写真見てるから」
「えー! 嘘でしょ。どうしよう、たまあい先生に見られちゃってるなんて」
「まぁ、だからその、おまえが俺の漫画のモデルってこともバレてて」
「わー……恥ずかしくて、ますます会えないよぉ」
まぁ結果、涼平である三田村はずっと自分のことを好きだったらしいので、漫画の内容も現実と同じだとわかって、なんというか、自分たちの関係のコミカライズのようで恥ずかしいのだが……
思い出しても頬が緩んでしまう。自分が三田村を想っていたよりもずっと前から、三田村に想われていたなんて。夢だったらどうしよう。
「けど付き合い始めたってのは、まだ姉ちゃんには言ってないんだ」
「えっ、そうなの?」
「そう。峰岸にも言ってない。俺ら、内緒の恋だから」
ただ、言うタイミングがなかっただけなのだが。
「……バレてる、かも」
「え、なんでだよ?」
「えへへ………。あ、そういえば峰岸くんって明日から就職先の鉄工所の研修だよね」
「そう言ってたな。まて、おまえ、いつのまに峰岸と仲良くなってんだよ」
「あれ、玉城くんやきもち?」
「そうだよ!」
妬いていることを素直に認めて、三田村を後ろから抱きしめる。はしゃいで、やめてぇくすぐったいー! とかわいい声をあげる三田村もまんざらでもなさそうだ。
ああ、こうして腕の中に天使を捕まえるなんてバチが当たってしまいそうだ。それならいっそ神様にも内緒にしておこうか。
「玉城くん、まだ眠い?」
「んー、寝ていいって言われたら、5秒で寝れる」
「じゃあ、目が覚めるように、キスしてあげよっか?」
「ふあっ!?」
それはいつかの夢ではないか、大丈夫か、これはちゃんと現実なのか?
「キ、キスもいいけど………どうせなら三田村の膝枕で、寝てみたい」
どうせ夢なら、と思いきってリクエストしてみる。
「ひっ、ひざまくら! それは、ちょっと恥ずかしいから……添い寝するよ! 一緒に寝よ?」
「なっ………」
もじもじしながら大胆な発言に、玉城はひっくり返りそうになる。
膝枕より、添い寝のほうが恥ずかしくない三田村が理解できない。いや、その前に添い寝なんてしたら、自分の理性は大丈夫なのか。しかしこれは千載一遇のチャンスではーー
「なんちゃってー」
「は、はは。冗談か、ははは」
心底落胆してる自分の顔を、腕の中の三田村には見えていないのが残念だ。
腕の中には天使みたいにかわいい恋人がいる。今までずっと見つめていただけの天使をやっと捕まえたのだから、大切にしなくては。
嬉しいときも悲しいときも、その表情をずっとずっと見つめていきたい。見つめられて恥ずかしそうに照れる君を、心のキャンバスに描いていこうと思うよ。
<完>
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