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「あー、驚いた……」
目を覚ました今でも『涼平』の小悪魔感たっぷりな笑顔がまぶたに焼き付いている気がする。夢の中で自分は間違いなく『淳』になっていた。しかも口では拒否するような素振りをしているくせに、あのまま流されてしまいそうだった。もし夢が覚めなければキスできたかもしれない……。玉城はうらめしそうに眠りを妨げた相手を睨み付けた。
「ん? どうした?」
スマホの画面を凝視していた隣の席の悪友、ミネこと峰岸勇太(みねぎしゆうた)は、玉城の視線に気づいたのか、首を傾げた。
「別に。あのさ、ミネ。寝てた俺が悪いんだけど、寝言に返事しちゃいけないってばーちゃんに教えてもらわなかったか?」
玉城は峰岸に抗議しながら、机に伏していてぺちゃんこになった髪の毛を直す。
「それは聞いたことないな。しかし、おまえがずいぶん幸せそうな夢を見ているのはわかった」
「う……」
確かに、好きな相手にキスを迫られるというのは誰もが憧れるシチュエーションであることは否めないが。
徹夜明けだった玉城は気力を振り絞って自宅から自分の席までたどり着いたまではよかったが、その後すっかり眠りこけてしまったようだ。周囲を見渡すと生徒たちがあちらこちらで机を寄せ合い、弁当や購買で買ったパンなどを広げて、談笑しながら食べている光景が広がっていた。どうやら午前の授業は丸々寝てしまっていたらしい。
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