ボーイズラブと男同士の恋

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「おまえ、どういうつもりだ」  廊下に出るなり、峰岸に問いただす。 「思ったままを言ったまでだ。やっぱり涼平は三田村なのか?」 「そ、それは……」 「淳って"じゅん"とも読めるよな。おまえの名前は潤也だったっけ。ああ、そういうことか」 「いや、その」  玉城の弁解が追いつかない。峰岸はもとから、こういう察しが良すぎる。喧嘩が強いくせに脳が筋肉ではない。番長のくせに空気が読める番長だ。 「で、おまえ三田村のこと好きなの?」  オブラートに包むということをしない峰岸の質問は直球だった。 「好きって……や、でも俺はホモとかゲイとかそーゆーんじゃ……」 「でも漫画に描くくらいなんだろ」 「自分でもよくわかんねぇんだよ……」 『三田村に想われてみたい』たしかにそれがあの漫画を描くキッカケだ。けれど、改めてそれくらい自分は三田村のことが好きなのかと言われると、答えを出したことがない。 「悪かった。こういうことは外野が、けしかけていいもんじゃないよな」 「あ、いや……」  煮え切らない玉城の態度を察してくれたのか峰岸に素直に謝られ、肩透かしを食らう。空気の読める番長は引き際も、ちゃんと知っている。鋭いくせに、深いところには触れないでいてくれる。峰岸はいつもそうだった。 「あまり男だから、とか考えなくてもいいと思う。俺から言えるのはそれくらいだ」 「うん、ありがとな」  二人はとりあえずトイレで用を足したが、峰岸はそれ以上追求してくることはなかった。  三田村はかわいいし、愛らしい存在なのは間違いない。けれど、それはボーイズラブ漫画のように、気持ちを通わせて、付き合ってキスをして、もしかしたらその先の関係を三田村に望んでいるのかというと、正直即答はできない。  見つめているだけだった今までから、今のように教室で話しかけてくれるまでが急展開過ぎて、まだ頭が追いついてないのも当然ある。漫画まで描くほどなのに、と峰岸は思っているだろう。それでもこの三田村への気持ちを「恋」という名前をつけたくない自分がいる。認めてしまったら、きっとその気持ちを届けたくなってしまう。伝えたくなってしまう。せっかく縮まった距離のまま卒業を迎えたいと思うのはいけないことだろうか。 ――『恋をすると人は臆病になる』  そんなフレーズを過去に何度か描いたことがある。ああ、こういうことかもしれないと、改めて実感するのだった。
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