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三田村から借りだボーイズラブ漫画の中には、付き合う前に体の関係になってしまうものもあった。お互いにヤル気満々でまるでスポーツのようにセックスしているものもあった。二人で行う性欲処理に気持ちなんて存在していなくていい、という文化も漫画で知った。男女の恋を描く、少女漫画では絶対にそんな文化は存在しないので、衝撃だったのを覚えている。
「……?」
静かな状況を不思議に思ったのか、三田村が顔をあげた。玉城と目が合うと、ふわりと目元を緩ませる。
か、かわいい。かわいすぎる。これが自分の恋人だなんて申し訳ない気持ちでいっぱいだ。この恋人に何をしても許されるだなんて、幸せすぎる。くりくりと栗色の瞳は、玉城をじっと見つめている。まるでこのあとの展開を待っているかのようだ。
――待ってる?
このあと恋人同士なら何をするのか、考えろと自問自答する。恋人になってキスをして、次は……押し倒す、のか?
昔、姉が読んでいたティーン雑誌を盗み見したことがある。恋人同士がする、ABC。Aはキス、Cはセックス、じゃあBはなんだ、とずっと疑問に思っていた。雑誌にはその答えが書いてあった。Bはペッティングといってお互いの体を触り合う行為だそうだ。
三田村の体を触る……? 触ってもいいのだろうか?
以前、撮影したときにも何度か体に触れた。手も繋いだ。自分よりも小さい手なのに骨ばっていて、男らしさをささやかに感じる手だった。さっき抱き寄せたときに感じたが、意外と背筋がついていて、それでいて肩は自分の両腕にすっぽり収まってしまうほど小さい。
目の前で服を脱いでいたときもあったが、あまりにも驚いてしっかり見なかったことは、今でも少し後悔している。
押し倒して、服を脱がして、体をじっくりを見てみたい。心のキャンバスに焼き付けたい。いっそ、自分がまきじゅんだとバレているんだから、デッサンさせてくれと、正々堂々と言ってはどうだろう?
いや、違う、今は、絵を描くよりも、三田村に触りたい。思う存分触りたい。
「玉城くん?」
三田村が自分の名前を呼び、ずい、と距離を近づける。条件反射で、玉城は少し身を引いた。危ない。これ以上三田村が近くに来たら、本気で押し倒してしまう。
ちらりと横目でリビングのソファの位置を確認する。ちょうど、三田村の背からソファまでは1.5メートルくらいだ。このまま押し倒すよりは、抱き上げて運んでしまうというのもいい。
栗色の瞳は、じっと玉城を見つめている。その瞳は、さきほどよりも潤んでいる。唇も心なしか、さっきよりも赤い。もしや三田村は自分を誘っているのではないだろうか。
キスのその先に続く行為を、三田村は知っている。自分のことが好きなら、自分が何をしても三田村は受け入れてくれることだろう。
もしかして、自分たちは、今日イクところまでイッてしまうのだろうか。それを三田村が期待していたとしたら、どうだろう。あんなえっちなボーイズラブ漫画を読んでいる三田村のことだ。興味があるに決まっている。
「三田村……」
玉城はごくり、と喉を鳴らす。
なにかも初めてだけれど、いっそ初めて同士なら手探りで進めばいい。それに気持ちが通じた今が一番チャンスなのではないか。
よし、決めた。
玉城は三田村に向き直り、徐々にその距離を詰めていく。お姫様抱っこ、抱える抱っこ、それとも肩を抱いてソファまでエスコート……?
ぐるぐるとその先の行動を脳内で計算していた、そのときだった―――
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