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「玉城くんちって、本当に学校に近いんだね」
二人の間に拳ひとつ分くらいの距離をあけて無言で歩いていたが、最初に言葉を発したのは三田村だった。
「まあな、家から一番近い高校を選んだから」
「それが理由なの?」
「そう。高校はマジでどーでもよかったんだ」
そういえば、そうだった。もともと高校に行く意味なんて、ないと思っていた。けれど、こうして卒業を目前にして振り返ってみれば、結局、峰岸しか友達ができなかったし、ちっとも変わりばえのしない毎日だったけれど、それなりに楽しかったと思う。何より漫画でしか知らなかった高校生活を体験したのはきっと自分にとってプラスだったと思う。
もちろん、一番の収穫は三田村涼に出会えたことだ。
「あー」
思わず、唸って頭をガシガシと掻く。
「どうかした?」
「いや、三田村がいたから高校楽しかったんだなって」
「そ、それはおおげさだよ!」
「マジで、俺、三年になって三田村と同じクラスになってからは、学校行くのが楽しみだったから」
「ええー……」
信じられないと言った表情で三田村は玉城を見つめる。けれどこれは嘘偽りはなく、事実だ。
「もっと早く……お付き合いできてたら、よかったね」
「そうだな」
確かに、恋人がいるというステータスだけで十分幸せだと思うけれど、実際、恋人が同じクラスにいるなんて、どういう接し方をいいかわからないし、自分がどういう行動をするのかも予想がつかない。
そう考えると、実は、今が一番いいタイミングだったかもしれない。
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