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「おまえは、付属の大学へ行くんだろ?」
「うん。文学部へ進むよ。玉城くんはフリーターって聞いたけど……」
「ああ、姉ちゃんのアシスタントをしつつ、バイトかな」
三田村にフリーターになるなんて伝えたかな、と思いつつ、そういえば近々ファミレスのバイトの面接があることを思い出した。
「進路は別々だけど……会ってくれる?」
「え、俺、そのつもりでいたけど……家も遊びにくればいいし」
「うん、でもお仕事のお邪魔になるようなら、言ってね」
「邪魔なわけないだろーが」
むしろ、仕事を三田村の都合に合わせたいくらいなのに、先生はこっちの都合なんて知ったこっちゃないんだろうな、とため息をつく。
もちろん三田村も学校の授業で忙しいだろうし、大学生となればそれなりに遊んだりなんかして―――
「なぁ、ホント、俺で大丈夫?」
「え?」
その言葉は、するりと口から流れるように出ていた。
「大学生になったらさ、出会いとかあるかもしれないし、俺なんかよりいいヤツいっぱいいると思うし」
「そんなこと言ったら、玉城くんだっていい出会いがあるかもしれないし」
「俺は、そーゆーのはないよ」
「それなら僕だってないもん! 玉城くんじゃなきゃ嫌だもん!」
「え……」
「あっ」
三田村は慌てて、両手で口を塞ぎ、後ろを向いてしまった。
本当は三田村が他にいいヤツと出会うなんて嫌だ。でも確認はしておきたかった。本当に自分でいいのかって。
そしてその答えは、予想以上に甘くて嬉しい言葉だった。そして、自分と同じだった。
気づけば後ろから三田村を両手で抱きしめていた。もうすぐ駅に着いてしまう手前で、人通りも決して少なくはないが、ちゃんと本能は電信柱の死角になる場所を無意識に選んでいた。
「安心した。嬉しい言葉、ありがと」
「うん……」
「俺、三田村と恋人になれてすげー調子乗ってる。だからおまえ以外を選ぶなんてありえない」
「えへへ……今度は僕が嬉しいな」
三田村を抱く腕に、ぎゅ、っと力をこめる。この手を離したくない。
「あと5分だけ、こうしててもいい?」
「うん」
どうやら三田村も同じ気持ちのようだった。
好き、という気持ちで心が満たされて、はちきれそうなほどだ。恋をするって苦しい。でもそれ以上に幸せだ。この幸せをずっとずっと続けていきたい。そのためにできることを明日から考えなくては。
「あの……もうすぐ5分経っちゃうけど、あともうちょっとこうしててほしいな」
「俺も、そう思ってた」
そう言いながらぎゅっと抱きしめる。結局、二人は交互にそれを繰り返して、三田村のスマホに再び家族から電話が入るまで、続いたのだった。
To be continue・・・
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