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ボーイズラブと男同士の恋
「うーっす、ミネ」
「おう」
翌朝、すでに登校している峰岸に挨拶をする。峰岸は喧嘩で授業をサボった前科があり、朝だけはちゃんと来いと言われているらしい。とはいえ、それで午後の授業は帰っていいわけではないのだが、たとえ自主早退をしてもそれでもまだ喧嘩よりはいいと学校からは大目に見てもらっているそうだ。
「なんか今日のおまえは調子が良さそうだな」
「ああ、今日は久しぶりにぐっすり寝たんだ。イケメン度が上がってるだろ?」
「それはわからん」
「おい」
そこはお世辞でも頷いてほしかったが、峰岸はそういう忖度をしない人間である。自分は"イケメン"からは程遠い人種であるのは認識している。たった一日分の寝不足が解消できたところで、自分の人相の悪さは少しも解消しない自覚もある。それにすでに姉からは次の原稿のスケジュールがメールで届いていたので、明日の夜あたりからまた原稿の手伝いが始まり、寝不足の日々は再開するのだ。
「玉城くん、おはよー!」
ざわつく教室でも天使の声だけは、しっかりと自分の耳に届き、思わず背筋がピンと伸びる。振り返ると三田村が、花柄の紙袋を片手に玉城の席に向かって手を振りながら走ってくるところだった。ああ、今日も三田村の笑顔は天使だ。
「峰岸くんもおはよう。玉城くん昨日はありがとうね。これ、突然お邪魔しちゃったお詫びに、家で作ったクッキーなんだけど食べて!」
「お、おう」
三田村は持っていた紙袋から透明の袋にピンクのリボンでラッピングされたクッキーを取り出し、玉城に手渡した。
「あ、峰岸くんの分もあるよ。どうぞ」
「俺の分?」
「うん、たくさん作ったから」
自分に渡したクッキーよりも、ほんの少し小ぶりな袋を峰岸にも渡す。自分が峰岸といつも一緒にいるから、という気遣いなんだろうが、峰岸にその笑顔をふりまくなんてもったいないだろう、と思ってしまう。もちろん自分の器が小さいのは認める。
「あと、これ、頼まれたやつね」
玉城の前に差し出された紙袋はずっしりと重く感じられ、開いていた上から中身を見ると、漫画本がぎっしりと詰められていた。タイトルから察するにボイーズラブだろう。
「これってもしかして」
「うん、その……作中で、男性同士が……そうなってるやつね」
周囲に配慮したのか、やや控えめな声で三田村が囁いた。昨日、自分が『男同士がセックスしてる』ボーイズラブというリクエストを覚えていて、わざわざ持ってきてくれたのだろう。
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