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天使の撹乱
「くん、……三田村くん」
「えっ、何?」
呼ばれて我に返った。玉城の部屋のリビングで隣には三田村がいる。そして部屋の中央にあるテレビ画面は、DVDの再生が終了しているのか、真っ黒な画面になっていた。
「ボーッとして、どうしたのかなって」
「ああ、悪い。考え事してた」
玉城は慌てて手を伸ばし、デッキからDVDを取り出した。
今日は三田村が家に来る日だった。こないだ借りた漫画で実写化された映画のDVDを持っているから、と鑑賞会をすることになった。漫画とは違って実際の人間が動いているところはとても参考になった。ゲイビとは違って心の揺れも演技というカタチで表現されていて、ところどころ一時停止をしてデッサンの参考にしたいくらいだった。
しかし男同士の恋愛に葛藤している二人を見ていて、自分の気持ちまで引き込まれてしまったのか、画面を目で追いながら、心はどこか遠くにいた。気づけば画面すら目に入らなくなっていたようだった。
「面白くなかったですか?」
「いや、それはない! 自分でも買おうかなって思ったくらいだ。さすが三田村が選ぶだけはある」
「そんな……なんか恥ずかしいな」
褒められて恥ずかしいのか、照れくさそうに目を背けている三田村をまた愛しいと思う。この短い間に見ているだけでは気づけなかった三田村のいいところを沢山知った。そのひとつひとつを挙げて褒めたいくらいだ。
「なぁ、三田村ってこういうの見て、どう思う?」
「どうって?」
玉城の問いに三田村は首をかしげた。
「その、実際の男同士の恋愛ってやつ?」
「あー……」
生ぬるい相槌が返ってくる。ボーイズラブと現実は違うということは、当然三田村も理解しているのだろう。
「え……っと、僕、最近はBL中心に読んでるけど、もともと少女漫画で恋愛を知ったところがあるから、キラキラした恋愛に憧れてるだけかもしれない」
「そっか」
それは自分と同じだな、と頷く。
「現実はなんていうか、うまくいかないんだと思う。この映画みたいに男同士で恋人になるって世間の目もあるだろうし、二人がいいだけではダメなんだろうな、とか」
「それはそうだろうな」
「でも、男の人にも魅力的な人はいるし、絶対にない、とは言い切れないかも」
「それって男を好きになる可能性もあるってこと?」
「うん……」
三田村の答えは肯定ではないが、その言葉に玉城の胸が高鳴るのを感じた。
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