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彼はチャイムの余韻の間、教室内の雰囲気が休みから授業へと変わる途中の時間を使って、いつも申し訳なさそうに僕に謝るのですが、ちゃんちゃらおかしいことですよ。ええ、全く。僕はもちろん笑みで接するんですが、もう心の中はグッチャグチャでしたよ。
僕がようやく座れたのは、チャイムが鳴り終わって数分経ってからでしたよ。本当は他の教室に入るのは禁止なんですけどね。もう先生の声なんて非力なんですよ、何も効果がない。
いつも通り、彼は誤ってきました。僕も、いつも通り笑顔を返しました。でも今日は違った。この後がいつもと違ったのです。
前に立つ先生が突然名前を呼ぶんですよね。彼、そうユウキのことを。それで彼は不思議そうな顔を浮かべるんですよね。さすがは名アクター・アクトレスだ。僕には到底できない。絶対知ってると思うんですよ。彼は自分が何でこんな風に呼ばれているか、その理由を確信してるはずです。でも、あっけらかんとしたきょとん顔で返答するんですよね。だってそっちの方がいいじゃないですか。無難で、うざがられずに。彼にはぴったりだと思いますよ。
先生はすごく興奮していました。とても嬉しかったんでしょうね。だから授業開始までに時間がかかったんだと、僕はここで不意に腑に落ちましたね。普段だと怒号が飛ぶはずで、みんなそれで萎縮して教室をあとにするのが常なんですが、今日は先生の物腰がやけに柔らでしたね。ほんと水中の昆布みたいに。
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