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あまりの騒動にいつもながら驚いている僕に、ふと誰かしらが声を掛けてきたのです。そう、なんとその声を掛けてきた人物こそ、この騒ぎの元凶、男か女なのかよくわからぬ見た目をした僕が半端者と揶揄するもの。世間一般ではエリートと呼ばれる、わが校の誉れなんです、彼・・・いや彼女?は。
「おはよう、元気にしてた?カズトヨ」
彼の笑顔はとても僕の心に響くのです。痛烈な自己嫌悪が巻き起こる内心を抑えつけながら、少し愛想笑いを交えて、挨拶を返す。すると彼は何気ないように、友達がやり取りするみたいな普通の会話をしてくるんです。僕はいつも驚嘆してましたね、彼の鈍さに。
おいおい、エリートさんよ。あんたはすげぇ演劇をするんだろう?演劇ってのは、先生が言ってたみたいに、感情移入が大切なんだろ?心情読解のスキルが高いんだろう?誰かになりきるんだろ?じゃあなんでお前はそんなに僕の心に鈍感なんだ?お前の得意分野なんだろうが!と、そんな風に内心憤慨してしまう。それにしてもなんで彼は雨で濡れていないのだろう?僕はずぶ濡れだったのに。
拳で握りしめて、僕は相変わらず愛想笑いで返答をした。
「また主演が決まったんだって?おめでとう!友人として誇らしいよ。」
クソめ。
「そんなこともないよ。ところで君はどうだい?君の演技力なら、きっと主役も」
「いや!僕なんてまだまださ!やっぱりユウキはすごいよ!僕らとは別格だね」
そんなことをいうなよ!心でそう想いムカついて、彼の話を遮った。これでも奴は気づかない。ほんと鈍いんだ、彼は。
こういうおべんちゃらを二人して投げ合っていると、気づいたらもうクラスまでやってきていた。別に彼と夢中で話をしていたわけじゃないんですよ。細心の注意を払っていたんですよ。彼といると注目されてるみたいで、それはいい。ただ彼と一緒にいると気疲れするのです。神経衰弱になってしまそうなんですよ、ほんと。
彼と僕は同じ部屋に入っていきました。同じクラスなんですよ、靴箱も同じというね。何かの嫌がらせなんですかね、神様。
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