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そう、嫌がれせと言えば、これはもう史上最大の嫌がらせだと思うんですよ。何がって、それは僕の一族なんです。僕の一族はというと、すごく由緒正しい家柄で、いわゆるエリートの部類の一族なんですよ。母、父はむろん、祖母、祖父、兄弟に至るまで、みんなしてエリートなんですよ。けどね、僕は違うんですよ。到底違う。だから普通ならやっかまれると思うでしょ。でも父親以外、みんな優しい。驚くほどに。まるで腫物を扱うようだから、僕はとてもやりきれないのですよ、全く。困っちゃいますよ。
おまけに席も左隣りで、生まれた時から知り合いのこの男がいつも隣にいるんですよ。もう堪ったもんじゃない。常人なら既に発狂して、変な事件の一つや二つ起こしてるはずですよ。
やつ、そうユウキってやつは、なんでも僕より器用にこなすし、人当たりもいい。人を惹き付ける力っていうんですかね、なんにでも必要になってくるあの取り留めない、よくわからない才能の際たる持ち主なんです。かたや僕なんかこいつの隣にいようと、誰にも注目されない。びっくりでしょう。まるで影みたいなんですよ。その上、演技はさしたことはない。ユウキは良く褒めてくれるんですがね、本心じゃないんですよ。もし本心なら、そいつはたぶん感性が壊死してるんですよ。絶対そうですよ。
だって、わかるじゃないですか。良いものが良いとは限らないんですよ。特にこういった曖昧な世界では。上手いからって言い訳でもないし、下手だから人気がでない訳でもない。ほんと曖昧なんですよ。だから成功した人気者という事実だけが重要なんですよ、世の中。僕の演技が上手いかそうじゃないかなんて関係ない。あいつは人気者で、僕は影。ただその事実だけなんです。
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