0人が本棚に入れています
本棚に追加
半年前。お互いに住んでる所が近いという理由で会合し、それ以来よくこの店で会って話をするようになったのだ。
私のお気に入りのこの店を彼女はいたく気に入ってくれた様子で、どうやら私が通っている以上に出入りしているらしく、すっかり常連として店員に認識されていた。
ちなみに、リンという名前はネット上で使うハンドルネームであって、彼女の本当の名前ではない。
何度も会うようになってからも、未だに私は彼女の本名を知らないし私の本名を教えてもいない。
今のところ、本名を知る必要はないと私は思っているし、彼女も聞いてこない様子からして私と同じ考え方なのだろう。
「でも、どうしてなんだろう」
私が珈琲に口をつけると、リンはおもむろにそう言葉を漏らした。結局手は伸ばすだけで、彼女は紅茶を飲む素振りはなく、顔色もうっすらと曇りがちのままだ。
リンの様子に苦い気持ちが胸にこみ上げてくる。珈琲の苦味も相俟っているようで、私は口に含んだ珈琲を味わうことを諦めて喉に押し込んだ。
そして軽く居住まいを正して彼女へと顔を向けた。
「日記にもあっただろう。“TRPGは辞める”と」
リンが話す、カイという人物。
彼は長らくTRPGというゲームを遊んできた人間で、またそのゲームのシナリオを手掛けている人物だ。
最初のコメントを投稿しよう!