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「相楽柳凛?あのテレビとかによく出てるチャラそうな男?あの人、作家だったの?」
バラエティタレントかと思ってた。
崇史は、そう言って首を傾げた。
「ミステリー作家だったんだぁ…」
つか、あの人すげぇ肉食系で、手当たり次第に女優とかモデルとか食い散らかしてるらしいよ?
しかも、男も食っちゃうって話。
「そんなんに口説かれてんの?大丈夫かよ、堀越?」
心配そうな親友の視線に、桔平は吹き出した。
「そんなの、余計大丈夫じゃん!そんな相手に困んない人が、俺なんか本気で口説くわけないって」
普段、女優さんとかモデルさんとか相手にしてんだろ?
大学からの帰り道だ。
今までは桔平が大学の近所だったので、一緒に歩く距離はほとんどないに等しかったけれども、今は駅までの道のりを二人で歩いて帰る。
「あのさ堀越、本気なのも困るけど、本気じゃないのに遊ばれんのはもっとダメじゃん?」
崇史のそんな指摘に、桔平はまた笑うだけだ。
「俺、遊佐さん以外の男にどーこーされんのとか無理だから、そんな心配いらねぇし」
元から性的嗜好が同性対象だったわけではない。
遊佐だから、同性の身体でも欲情するのだ。
そう思って桔平は、遊佐のその爪の先まで完璧な形をしている手が自分に触れる行為を思い出してしまい、小さく咳払いをして、そっと首に手を触れた。
その首筋には、絆創膏が幾つも貼ってある。
崇史は、その絆創膏について触れなかったが、朝会った瞬間にぎょっとした顔をして、それから幾分頬を赤らめて目を逸らしたから、明らかにそれが何の意味を持っているのか気づいていたはずだ。
他の友人たちはもっとあからさまに、無遠慮な視線を向けては「堀越の彼女はすげえ積極的だな」「キスマークそんなにつけるなんて、どんな情熱的な彼女だよ」と冷やかしてきたので、本当に今日はいたたまれない一日だった。
これからバイトにも行かなきゃならないのに、と桔平は、手に触れる絆創膏の感触にため息をついた。
バーテンダーの制服は襟の高いワイシャツだから、今ほど目立ちはしないだろうけれど。
今日も来るであろう相楽に、間違いなく指摘され、からかわれるだろう。
そして、こう言うに決まっている。
「俺にもそんな痕、つけさせてくれないかな?」
遊佐以外に、そんなこと、させるはずもないのに。
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