2.

6/7
前へ
/46ページ
次へ
桔平は、少し迷って、そして。 言われたものとは違うカクテルを作り始めた。 「遊佐さんには、今日はこっちを飲んで欲しいから」 オーダーと違うものでごめんなさい。 そう言いながら、ほんのり乳白色のカクテルを差し出す。 遊佐は、そのカクテルを一口飲んで、何かすぐにわかったようだ。 「XYZ…か」 それに込めた意味にも気づいたのだろう、嬉しそうに頬を緩めた。 桔平とカクテルを見比べて、ニヤニヤとにやけている。 そんな顔もかっこいいのが、なんか癪に障る気もするけれど。 そのやり取りを、もちろん先客の男も見ている。 彼も、そのカクテルの意味が何か、すぐにわかったようだ。 「うわあ、俺、もしかして凄いガッツリ振られてる?」 そうだよな、フリーなわけないか、こんな魅力的な美人が。 「はあ?」 魅力的な美人て誰のこと?? ハテナマークが頭に浮かぶ桔平に、その男はしかし、ニッコリと笑った。 「でも俺、人のものだと余計に欲しくなっちゃうタイプなんだな」 遊佐にもやや挑戦的な視線を投げて。 「若く見えるけど、あの人結構おじさんだよな?君には俺ぐらい若い男のほうが、話も合うし体力もあるし何かといいと思うよ?」 何やら勝手なことを言って、立ち上がった。 「今日のところは、君の名前を知れただけでよしとするかな」 お会計お願いします。もちろん、最初の一杯の分も払うよ? 「君を落とすまで通ってくるから、覚悟しといて、堀越桔平君」 そう言い残して、その男はバーを出て行った。 「はあ、嵐のようなお客様だったね…大丈夫?堀越君」 マスターが心配そうに桔平を見ている。 「もし、どうしても嫌なら、あのお客様には悪いけれど出禁にするから、辞めちゃうなんて言わないでくれる?」 やっと気に入ったバイト君を見つけたのに、こんなことで辞められたら困っちゃうから。 「大丈夫です、そんな、あの方も少しふざけていただけだと思いますし」 遊佐みたいな物好きがそうそういるはずもない。 ちょっとからかってみたら、周りが過剰反応したから引くに引けなくなっただけだろう。 桔平だって、こんなにシフトの融通をきかせてくれて、時給もよく、やっと楽しくなり始めたバイトを辞める気はない。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1177人が本棚に入れています
本棚に追加