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川嶋は、いつもの無表情を保ってはいたけれども、内心すごくハラハラしていた。
彼のボスの機嫌が、物凄く悪い。
彼のボス、遊佐は最近恋人の桔平と念願の同棲を始めて、わかりやすすぎるほどご機嫌だったのに。
喧嘩でもしたのだろうか?
あまり人様の色恋に首を突っ込むのはどうかと思うけれども、ここまで機嫌の悪い遊佐は久しぶりだ。
新しい予定を入れるのを渋って、なかなかうんと言わない。
何か考えてあってのことではなさそうだ。
単に機嫌が悪く、気乗りしないだけなのだ。
それなりに長い付き合いの川嶋にはそれがわかってしまう。
仕事を円滑に進めるためには、リサーチするのも致し方ない。
遊佐が処置室に入っているのを確認して、川嶋は桔平に電話をかけた。
そして、バーで口説かれた顛末を聞き出す。
その上、初めて口説かれた日から毎日のように、そのお客さんが桔平の元に通ってきているらしい。
しかも、そのひとは、開店と同時に現れて、遊佐が桔平を迎えに行くとバトンタッチするように帰って行くようで。
だからか、と川嶋は納得した。
遊佐が最近、遅い時間帯の予約を嫌がるのは。
なるべく早く桔平を迎えに行きたいのだ。
それにしても、遊佐にしては珍しい。
そんな男が溺愛する桔平の周りをうろつくのを許しているとは。
遊佐のことだから、桔平には気づかれないよう裏から手を回して、その男を脅して手を引かせるぐらいはしそうなものなのに。
それをしないと言うことは、何か特殊な相手なのだろうか?
川嶋は少し考え込む。
そして、もう一本電話をかけた。
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