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川嶋は、そのいつもと少しも変わらない無表情の下で忙しなく頭を回転させている。 遊佐が動くときのシミュレーションをして、事がスムーズに運ぶように事前に多少段取っておく必要もあるかもしれない。 宇賀神は、傍目には全然わからない川嶋のその内側がわかっている。 だから、そのフル回転している恋人の腰に手を回し、少しいちゃついてるふうを装ってやる。 仕事に真剣な川嶋も、なかなかそそるものがあってイイ。 彼は、マスターに向かって、恋人の代わりに注文した。 「彼にはキールを」 マスターは、桔平を振り返った。 「堀越君、作るかい?」 「あ、はい」 桔平は、キールのレシピを開く。 宇賀神はカクテルの意味とかあんまり気にしなそうだけれども。 キールのカクテル言葉は「最高のめぐり逢い」だ。 互いを想う気持ちを、いつでもどこでも誰に対しても隠そうとしない強い結びつきを感じる二人には、よく似合う気がする。 「ところで、アキ、遊佐センセイはどうした?てっきり一緒に来るのかと思ってたんだが」 一頻り考えを巡らせて方針が決まったのか、桔平の作ったキールを口にし始めた川嶋に、宇賀神が尋ねる。 「先生は、車を置きに一度マンションにお帰りになって、堀越君の夜食の用意をしてから来られるそうだから、先にここで降ろして貰ったんだよ」 龍が堀越君に迷惑かけてないか心配だったから。 「夜食って…あの完全無欠な男は、料理もするのか」 嫌味なほどデキる男過ぎて引くな。 そのデキ過ぎて気持ち悪い男の溺愛相手がアレだというのも不思議だが。 宇賀神のそんな言葉は、桔平自身も不思議に思っているわけだし、今更だ。 チリン、とドアベルが鳴った。 「噂をすれば、か」 今日も完璧な格好よさで、遊佐が入ってきたところだった。 彼は、他の人には目もくれず、真っ直ぐに恋人を見つめる。 「桔平、ただいま」 いつものカウンター一番奥の席に座って、桔平の手からおしぼりを受けとると、少し笑みを零した。 「人のいない隙に、何を噂していたんだ?君が私を好き過ぎるという話かな?」 それなら、私もいるところで話して欲しいが。
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