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誰かと一緒に住むなんていう日がくるとは思わなかった。 今まで付き合ったどの相手とも、自分のテリトリーに入り込まれることは嫌悪しかなかったからだ。 恋人、と呼んだ相手は両手の指では足りないほどいたし、そう呼ぶまでもない身体の関係だけの相手も入れたら、自分の年齢よりも多くの人を数えることになるだろう。 だけど、そのひとは違う。 側にいて欲しくて、一時(いっとき)も離れていたくなくて、何度もにべもなく断られながらも、とうとう一緒に住むことを承諾して貰ったのだ。 舞い上がるほど嬉しい。 そのひとが、自分のテリトリーにいてくれるだけで、こんなにも幸せな気持ちになれるなんて。 桔平が、遊佐のマンションに越してきて一週間がたった。 彼は今、スマホの画面をスクロールしながら、求人情報サイトとにらめっこしている。 結局、コンビニのバイトは辞めることにしたのだ。 上京してからずっと働いていて、仕事も慣れていたし人間関係も良好だったので、最後まで迷ったのだが。 夜遅い時間のシフトで働くのは家が近いからできたことで、遊佐のマンションから通うのは効率が悪かった。 バイトに行くのに、わざわざ遊佐に送迎して貰うわけにもいかないし。 遊佐は、今までどおりなんだから送迎されればいい、と言ってくれたものの、一応デートをするために家に迎えに来てくれる(てい)で迎えにこられるのと、家から送迎されるのとでは意味が全然違う気がして、桔平的に気持ちに折り合いがつかなかったのだ。 そんなわけで、できればコンビニのバイトよりも少ない労働時間で同じぐらい稼げて、このマンションからも近いバイト先を、目下絶賛探し中なのだ。 「桔平に生活費を入れて貰うつもりはないから、バイトなんてしなくていいんだが」 遊佐は、そう言いたくてムズムズする口を閉じているのに苦労している。 ようやく越してきてくれたひとが、出て行ってしまうことになるのだけは避けたい。 真面目で常識的すぎるところも好きなところの一つには違いないけれど、使い途のないお金が唸るほどある遊佐に、恋人のためにそれを使う楽しみをくれてもいいのに、と少し恨めしい。 「あ、ここ」 桔平が、ふと真剣な瞳になる。 気になるバイト先が見つかったのか。 そんなもの、永遠に見つからなければいいのに。 そんなことを思ってしまう自分が狭量過ぎて情けない。 遊佐は、小さくため息をついた。
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