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ふうん、と相楽は、飲んでいたカクテルの残りを飲み干した。
目の前の清潔感溢れる天然系青年は、なかなか面白い知人に囲まれているようだ。
何日も通ってわかったことは、彼は自分のことをとても平凡ななんの取り柄もない男だと思っていること。
しかし、平凡なだけの青年の周りに、こんなに癖のある人物が集まるわけがない。
堀越桔平という青年は、本当に面白い。
ごくごく普通の青年だけれども、どこか淡く漂う色気とのアンバランスさが不思議な魅力を醸し出している。
育ちがいいのだろう、基本的におおらかで柔らかい。
相対する相手のいいところも悪いところも含めて許容してくれそうな居心地のよさ。
それら全部を好ましいと思う。
が、一番惹かれるところは、彼の誘いに全く乗ってくれないところだ。
相楽は自慢ではないけれども、男女問わずにモテる。
彼が本気で欲しいと思って、落ちなかったひとはいない。
それがたとえ、他人のものであっても、だ。
だけど、目の前のこのつれないひとは、彼の秋波に本気で困っている。
手を握れば引っ込めようと必死になるし、口説き文句は気づかないふりでかわそうとする。
それなのに、恋人を見るうっとりとした顔の艶めかしさといったら。
あんな妖艶な顔ができるのに、恋人一筋で他の男とは遊べないなんて、あり得ないだろ。
まあ、相手があんな、少々年食ってるとはいえ、完璧なイケメンじゃあ、夢中になる気持ちもわからなくはないけれども。
それにしたって、だ。
少しぐらい、ぐらついてもいいんじゃないの?
相手は昼間は仕事してるんだろうし、目を盗んでちょっと遊ぶぐらいできそうなもんなのに。
恋人同士だろうに、カクテルを手渡すときに指先が触れるだけで赤くなる桔平の中学生みたいな反応。
だけど、その恋人が、あんな経験豊富なのを絵に描いたみたいなオジサマなんだから、抱かれていないわけがないのに。
抱いてみたい。
仄かに垣間見えるあの色気が、抱いたらどんなふうになるのか、見たくて堪らない。
そんなしょーもないことをツラツラ考えていたせいで、いろんな妄想が膨らみ、相楽はため息をついて立ち上がった。
「また来るよ、桔平君」
テキトーな相手をお持ち帰りできるバーに行って飲み直そう。
桔平に似た背格好の相手を見繕って、とりあえずの欲望を解消するか。
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