1177人が本棚に入れています
本棚に追加
「はあ?お前、何やってんの?!」
相楽は、その男から電話を受けて、頓狂な声を上げた。
「それさ、犯罪じゃん?」
電話の向こうの男は、ゼイゼイと息を乱している。
「先生が、抱きたいって言ってたんじゃないですか…抱いたら書けるって!」
興奮して叫ぶようにそう言う男は、更に続けた。
「この人、背が高いから、車に乗せるのだけで精一杯だったんですよ。早く駐車場まで取りに来て下さい、部屋まで運ぶのは僕一人じゃ無理です」
担当編集のその男が、堀越桔平を拉致してきた、と言うのだ。
何やってんだ、あいつは、と相楽はため息をついた。
とにかく、どんな状態なのか知らないけれど、怪我したりしてたらいけないから、とりあえず部屋には連れてきたほうがいいだろう。
それから、状態を見て、あのバーに連絡するか。
書けない、と言って担当編集を追い詰めたのは、自分にも責任がある。
このところ彼が、本当に思い詰めた顔をしていることに、気づいていないわけではなかったのだから。
売れっ子作家は、遊佐同様、高級マンションに住んでいる。
そのマンションの地下駐車場に降りて、編集の古いミニバンに近づいた。
人を殴って気絶させるなんて、生まれて初めてしたのだろう、変にテンションが上がって、泣いているのか笑っているのかわからない顔をしているその男が、車から降りてきた。
後部座席のドアを開けると、細身の長身がくったりと横たわっている。
「どこを殴ったんだって?」
相楽はため息をついて、訊いた。
「こ、後頭部です…」
サラサラの黒髪を掻き分けるように撫でると、少し熱を持ってたんこぶのようなものができている。
とりあえず、部屋に運んでベッドに寝せるか。
頭を高くしたほうがいいだろうし、車の中よりは楽なはずだ。
相楽は、その長身の身体を抱き上げた。
背は高いけれども細いからか、思ったよりは軽かった。
これなら、一人でも運べそうだ。
最初のコメントを投稿しよう!