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「はあ?お前、何やってんの?!」 相楽は、その男から電話を受けて、頓狂な声を上げた。 「それさ、犯罪じゃん?」 電話の向こうの男は、ゼイゼイと息を乱している。 「先生が、抱きたいって言ってたんじゃないですか…抱いたら書けるって!」 興奮して叫ぶようにそう言う男は、更に続けた。 「この人、背が高いから、車に乗せるのだけで精一杯だったんですよ。早く駐車場まで取りに来て下さい、部屋まで運ぶのは僕一人じゃ無理です」 担当編集のその男が、堀越桔平を拉致してきた、と言うのだ。 何やってんだ、あいつは、と相楽はため息をついた。 とにかく、どんな状態なのか知らないけれど、怪我したりしてたらいけないから、とりあえず部屋には連れてきたほうがいいだろう。 それから、状態を見て、あのバーに連絡するか。 書けない、と言って担当編集を追い詰めたのは、自分にも責任がある。 このところ彼が、本当に思い詰めた顔をしていることに、気づいていないわけではなかったのだから。 売れっ子作家は、遊佐同様、高級マンションに住んでいる。 そのマンションの地下駐車場に降りて、編集の古いミニバンに近づいた。 人を殴って気絶させるなんて、生まれて初めてしたのだろう、変にテンションが上がって、泣いているのか笑っているのかわからない顔をしているその男が、車から降りてきた。 後部座席のドアを開けると、細身の長身がくったりと横たわっている。 「どこを殴ったんだって?」 相楽はため息をついて、訊いた。 「こ、後頭部です…」 サラサラの黒髪を掻き分けるように撫でると、少し熱を持ってたんこぶのようなものができている。 とりあえず、部屋に運んでベッドに寝せるか。 頭を高くしたほうがいいだろうし、車の中よりは楽なはずだ。 相楽は、その長身の身体を抱き上げた。 背は高いけれども細いからか、思ったよりは軽かった。 これなら、一人でも運べそうだ。
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