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桔平は、ぼんやりと瞳を開けた。
頭がズキズキする。
あれ?俺……?
「ん…遊佐さん……?」
ベッドの上にいることで、家にいると思い込んだのかもしれない。
口から零れたのは、恋人の名前だ。
が。
寝乱れたようにしわくちゃのシーツに、どこか違和感を覚える。
遊佐はいつも、桔平を抱いた後、彼が寝苦しくないように新しいシーツでベッドを整えてくれている。
そのシーツも、いつもの柔軟剤の匂いではない。
身体を起こそうとして、ギクッとした。
脚の間に、ベタつくようなごわつくような、そんな違和感がある。
お尻から太腿のあたりだ。
事後、潤滑剤やら精液やらが乾いた後のような。
しかし遊佐は、よほどでない限り、桔平の身体をそんな状態で放置したりしない。
大抵は事後、シャワールームで丁寧に洗ってくれるし、桔平が起き上がれない状態だったり、意識を飛ばしてしまったりしたときは、蒸しタオルで全身を清めてくれているらしい。
彼をこの上なく溺愛しているそのひとは、本当に至れり尽くせりで、高貴なお姫様にかしづくように桔平を扱うのだ。
桔平は、恐る恐る身を起こした。
知らない部屋、知らないベッド。
床の上に放り投げられたように散らばっているのは、桔平が着ていた服だ。
彼は全裸だった。
遊佐に貰ったリングだけが、首から細いチェーンでそこに頼りなくぶら下がっている。
なんだ、これ……?
俺、なんで…ここ、どこだ?
震える身体をなんとか動かして、床に散らばった服をかき集めて身につける。
脚の間のごわつきが気持ち悪いけれど、そんなことに構っている場合じゃない。
服を身につけて、はっと、ベッドサイドのテーブルに、自分の腕時計が置いてあるのに気づいた。
それは、遊佐がプレゼントしてくれたものだ。
横のボタンを操作すると、遊佐に救難信号が届くようになっている、と、それをくれたとき、遊佐は言っていた。
救難信号を出すべきか、桔平は躊躇う。
遊佐以外のひとに、この身体を好きなようにされてしまったのかもしれない。
怖い。
遊佐がどんな顔でこんな自分を見るのか。
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