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その電話を受けた川嶋が、少し緊張したのを遊佐は見逃さなかった。
嫌な胸騒ぎに襲われる。
「先生、一期一会のマスターからのお電話でした」
一期一会は、桔平のバイト先のあのバーだ。
「堀越君がアルバイトの時間になっても来ないそうです」
遊佐は咄嗟に時計を見た。
桔平は今日は開店からバイトに入る予定だったはず。
学校が終わるのは何時だったか?
何時間、消息が不明だ?
考えを巡らせている間に、川嶋はてきぱきと情報収集してくれているらしい。
桔平の友人に電話をかけて、何時まで彼と一緒だったか確認している。
最近、遊佐の恋人に下手にちょっかいかけると大変な目に合うということが、周囲にはがっつり浸透してきたようで、桔平へ干渉する動きはほとんどなかったはずだ。
何処の誰の仕業だ。
桔平は無事なのか。
「桔平の携帯のGPSを辿れ」
それで辿れないなら、腕時計に埋め込んだ発信器だ。
遊佐は、自分の身体が少し震えていることに気づく。
桔平を失うかもしれない。
そのひとが傷つけられているかもしれない。
それがどうしようもなく怖い。
何かを怖いと思うなんて、桔平と出逢うまでは感じたことがなかった。
どんなことがあっても、何を犠牲にしてでも、この手に取り戻すから。
神にしか赦されない領域にだけは、逝かないでいてくれ。
彼は祈るようにぎゅっと目を閉じて、それから、自宅マンションのコンシェルジュに電話をかける。
学校から桔平が一度は家に戻ったのか、それとも戻らないまま消えたのか、で拐われた場所の目星がつくかもしれない。
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