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相楽は、小さく舌打ちして、来客を無視することにしたらしい。 しかし、インターフォンは何度もしつこく鳴らされる。 そのうちに、連打に近い状態になってきた。 しぶしぶ、といったていで、彼は立ち上がった。 そして、インターフォンに写し出された来客を見て、少し驚いた顔をする。 彼はそのまま無造作に通話ボタンを押した。 「あんたか」 インターフォンから聞こえたのは、桔平の大好きな、その声だった。 「桔平がそこにいるんだろう、早くドアを開けろ」 結局、腕時計の発信ボタンは押していない。 だからきっと、物凄く探し回って見つけてくれたのだ。 桔平は零れる涙が止まらない。 遊佐に会いたい。 だけど会いたくない。 どうしていいのかわからない。 「帰したくないけど、帰るんだよな?」 もう信用失っちゃったみたいだから、全然信じてくれないだろうけど、俺、君のこと、結構本気で好きなんだよ? 君の身体に触れたら、余計に君が欲しくなったから、これからも諦めないから。 相楽は、玄関ドアの鍵を開けに、桔平から離れて行く。 「ああ、それから、さすがに悪いと思ったから、挿入はしてないからな?素股で我慢しといたよ」 だから、まあ、セーフなんじゃないの? 君の貞操は、さ。 それらの言葉のどこまでが真実なのか。 意識のない人に、手を出そうとする男の言う言葉の。 玄関のドアを開けるなり、飛び込んできた遊佐が桔平のところに靴のまま駆け寄ってくる。 泣いて泣いて、目を真っ赤に腫らしている桔平を、ぎゅっと抱き締めた。 「桔平、よかった…無事で」 無事だと言えるのだろうか。 桔平は、遊佐に抱き締められても、身体を固くしたままだ。 その胸に身体を預けていいものか、わからない。 「桔平」 遊佐は桔平の涙に濡れた頬を撫でる。 「頭を診せてくれるか?殴られたところを」 また君は忘れているかもしれないけれど、一応私は医者だからな。 「痛みはあるか?気持ち悪かったりはしないか?」 桔平は、頭を横に振る。 「なら、いい。君に怪我がなくて、生きていてくれる…それだけでいいから」 それ以外のことは、何も問題ない。 どんな君も愛している、と前にも告げたはずだけれども。 何度でも、君がそれを受け入れてくれるまで囁くから。 だから、その頭を、どうかこの胸に預けて欲しい。 そんなに身体を固くして、拒絶なんてしないで欲しい。 頼むから。
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