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桔平の新しいバイト先のショットバーは、遊佐のマンションから歩いて行ける距離にあった。 つまり、都心の一等地で赤字を出すことなく続けていけるような、洗練されたそれなりに繁盛しているお店らしい。 さすがに賃料の坪単価が半端ない地区なので、カウンターの中は、マスターと見習いバーテンダーである桔平が二人で立つので精一杯、客席は、カウンターと小さなテーブルが2つあるだけの狭いお店だった。 ちなみに、カウンター席には椅子があるけれども、テーブル席のほうは立ち飲みスタイルになっている。 椅子を入れるほどの広さの余裕がないからだ。 この狭さのお店ならば、バイトを雇わなくてもマスター一人で十分回せるのではないかと思ったし、実際今までは一人で回していたらしいのだけれども。 先日腰を傷めてしまったマスターが、立ちっぱなしでの長時間の仕事が厳しくなってしまい、急遽バイト募集の運びとなったらしい。 マスターは遊佐と同じぐらいか、少し上ぐらいの落ち着いた感じの人だった。 経験者よりも初心者を選んだのは、自分の店のカラーを変えられたくなかったからなんだ、と柔らかい笑みの下に芯の強さを覗かせる顔で、面接のときに言っていた。 毎晩のようにコンビニに迎えに来ていた遊佐は、今度は桔平のシフトが入っている日には毎晩バーに通ってくるようになった。 「バイトを一人雇ったら、物凄く熱心な常連客がくっついてきたね」 マスターはそう言って笑う。 「すみません…あの、ご迷惑でしたら来ないように言います」 桔平が恐縮してそう言うと、まさか、と彼は更に笑った。 「一杯でずっと粘るわけでもないし、売上に結構貢献してくれてるんだよ、もう立派なお得意様なのに迷惑だなんて」 それにしても、遊佐さんはお酒強いよね。 君がバイトに入ってる間中、途切れることなく飲んでるのに全然酔わないから、初めは本当にビックリしたよ。 桔平がバイトを始めてしばらく、心配性の遊佐は桔平が店に出ている間中ずっとカウンターの片隅を陣取って、お店の客筋やマスターの人となりを観察していたのだ。 問題がないと判断したのか、最近は桔平の仕事上がりの少し前にやって来て、軽く2、3杯飲んで一緒に帰るという感じに落ち着いたけれども。 こんなに近くにあんないい店があるのには気づかなかったな、と遊佐は桔平にそう感想を漏らしていた。 君がバイトを辞めても、時々通いたいぐらいだ。
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