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電話が鳴っている。
相楽は、眠りを妨げられて、やや不機嫌に相手も見ずに電話に出た。
「柳凛、お前、何をやらかした?!」
そのビィーンと耳に響く太い声に怒鳴られ、一瞬で目が覚める。
「お、伯父さん…?」
「今すぐダークグレーのスーツを着て、身支度を整えろ、迎えに行く」
「えっ、え?スーツ??」
聞き返したが、既に電話は切れていた。
何がなんだかわからないまま、慌ててクローゼットから言われたとおりのダークグレーのスーツを探し出し、着替える。
彼の伯父は普段温厚だが、怒らせると非常に恐ろしい。
奔放な相楽だが、母の兄であるその伯父にだけは頭が上がらないのだ。
魑魅魍魎がわんさかいる政治の世界で、そういう輩を相手に臆することなく暗躍しているらしいそのひとは、小さな頃からヤンチャで手に負えない悪ガキだった相楽を、ガチガチに縛ることなく自由に遊ばせてやれ、と可愛がってくれた。
しかし、やってはいけないと決められた幾つかのことだけはやるな、と約束させられ、それを破ると物凄く叱られたのだ。
でも、そのひとのおかげで、今の彼があると言っていい。
作家として大成したのは、そうやって自由に遊ばせて貰い、就職せずに執筆する、と言ったときに猛反対した両親を、伯父が説き伏せて応援してくれたからだ。
そのひとが、あんなに慌てて怒っている。
何が起こったのか。
というか、自分は何をやらかしてしまったのか?
担当編集が辞めた、と聞いたときと同じ、うなじの辺りの毛が逆立つようなピリピリとした嫌な予感が、再び襲ってくる。
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