ありま座の恋 ー裏側ー

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「もっと久坂さんに会う男がいます」 七里は自信ありげな口調で結衣にそう告げた。その通りだと私も思うが、客観的に聞いて最低最悪の台詞だった。 まさに帰ろうとしていた結衣は、水色のダッフルコートを羽織り、白い鞄を下げていた。七里の言葉に再び瞳を揺らし、ちいさな手で顔を覆ってまた涙を隠した。 やはり七里はポンコツだ。こんな男のどこがいいんだか、呆れ返る反面、憎めない奴だと認識している自分もいる。 「俺とかどうですか」「タダなのに売れなくて本当に困っている」「もう一生彼女とかできない気がする」、次から次へと、低い自己評価が七里の口から滑り出していく。 栞に書き綴った言葉は、まだ七里に読まれていない。それに気が付いた結衣の表情は途端に輝き、「この間の読みかけの本、面白かったですか」と尋ねる声にも勢いが含まれていた。
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