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素直にそう吐露すると、久坂さんはちいさな手をゆっくりと俺の背中に回してくれた。
腕に力を込めて、彼女の細い身体を強く引き寄せる。甘い香りを吸い込むと、苦しいと胸が揺れ動いた。
「今日このまま持って帰ってもいい?」
離れがたくて試しにそう言ってみた。
「何をですか?」
「えっ、結衣のこと」
「それはダメです」ときっぱり言い切った彼女に、「ええ」と落胆を溢してしまう。
その情けない声と一緒に、かろうじて指先で掴んでいた文庫本が床に落ちる。
ありま座が、開いたページから抜け出した栞を、懐である本棚の下に滑り込ませた。
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