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彼女は束になった本をよいしょと持ち上げ、カウンターにゆっくりと置いた。
手首に華奢なブレスレットタイプの腕時計が巻かれていて、その頼りなさや丸い文字盤の桃色が、彼女らしいと勝手に思う。
久坂さんはいつも、本をとても丁寧に扱う。
清潔感のある指先が表紙に触れるのを見ていると、「ああ、いいな」などというどうしようもない感想が胸の内に広がった。
俺は久坂さんのことを、常にそういう目で見ている。もっと端的に言えば、ぜひとも俺だけの彼女になってほしい。
営業で毎日歩き回っていると、ときに怒鳴られ、ときに理不尽な要求をくらう。
それらをしっかりと受け止めた後、疲れた身体で入るこの空間で、彼女はいつも、俺のことをその笑顔で癒してくれるから。
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