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誤解が解ける。でもこれでまた、平行線の二人に戻るのか。
ほっとしたような、もどかしいような、何とも言えない不思議な感情が私の中で渦巻いた。
「貸して欲しい」と何度か懇願された七里は、くたびれた通勤鞄からあの文庫本を引っ張り出した。
文庫本から顔を出した、私モデルの栞。太陽の光のような黄色いリボンが、七里の動きに合わせてちいさく揺れる。
ビールも欲しいが、それよりもその栞の方がもっと欲しい。
すぐにでもそう訴えたかったが、唾を飲み込んでそれを堪えた。
七里と結衣の会話がまとう空気が、いつものありふれたものから少しずつ変わっていく。ずっと重ならないまま紡がれてきた二人の想いが、ようやく結ばれるときが来た。
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