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しっかりと抱き合った二人を、その頭上からぼんやりと眺めた。
よく頑張った、結衣。
七里の腕に埋もれる結衣のちいさな身体を見つめていると、不思議と泣きたくなった。
なぜこんな頼りない男? と未だに思ってしまっているし、正直に言って腹が立つ。
それでも結衣の、七里を見て微笑むこの表情はずっと見たかったものだし、私では引き出すことが出来なかったと理解してもいる。
論理的に説明のできないこの感情を、もしかしたら、人は恋と呼ぶのかもしれない。
鞄やら、缶ビールの入った袋やら、文庫本やらとたくさんのものを手に持ちながら結衣を抱き留めていた七里。その大きな手から、文庫本が私のところに飛び降りてくる。
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