ありま座の恋

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「今日は在庫の確認でしたよね」 久坂さんはそう言って、僅かに首を傾げた。肩まで伸びた柔らかそうな髪が揺れ、コーヒーの匂いとともに、彼女の甘い香りが鼻を掠める。 いつもは斜め上から見ることが多いけど、正面から見る彼女もやっぱり可愛い。 段ボールの上に添えられた手。あと少しだけ伸ばせば触れることのできる彼女の指先。そんな度胸もなく、彼女から距離を取った。 「じゃあ、作業させてもらいます」 ありま座にはささやかではあるが文具コーナーが設けられており、社長同士が古くからの友人であるため、佐倉文具の商品をそこで取り扱ってもらっている。 定期的に在庫を補充しつつ、さりげなく新しい文具を売り込むことがここでの俺の仕事だ。
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