第二章

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「カフェねぇ。何か一つは注文しなきゃならないから余計な出費、とか言い出す人いそう」 「今日一日限定ホットドリンク(特典付き)を販売してる」  ちょっと待て。 「特典って何」 「オリジナルデザイン恋のお守りキーホルダー。念こめてあって効き目あるぞ」  節分だかバレンタインだか。 「豆まきじゃ若年層より高齢者のほうが多いと思うけど?」 「健康お守りバージョンの高齢者向けお茶&菓子セットもあるぞ。ぬかりはない」 「用意のいいことで」  来てくれた子供たちには帰る時一人必ず一個、豆の入った小袋を配った。みんな同じもので同じ量。ケンカにならないようにね。  これはあたしが小さい頃行った神社の豆まきでの経験に由来する。まぁそこ父親の実家なんだけどさ。  そこは早朝から時間に余裕のある高齢者が場所取りしていて、しかも豆が届くのは彼らの所だけだった。櫓の上から投げるんでも、届く距離はせいぜい前三列。 大きな紙袋を広げて暴動かというくらいの争奪戦になり、毎年ケガ人が出るくらいだという。後ろの方まで投げればいいのに、どういうわけかそうしないんだそうだ。 父が種明かししてくれた。 「前三列は親戚や氏子、寄付金を包んだ人専用レーンなんだよ。僕の実家は『邪神を封じた英雄を祀った神社』だろう? その福ものなら人は欲しがる。いつしかたくさん手に入れた者がえらいって競争みたいになっちゃってね。年々エスカレートしてる」 「ケガしてる時点で全然ハッピーじゃないじゃん」 「その通り。なのにそんなことにも誰一人気づかないんだよ。おかしいだろう? 父さんも兄さんも欲しけりゃ金払えって、馬鹿にして笑ってた。しかも三列に入れる定員は決まってて、寄付金の多い順番なんだよ。だから金払おうとしても低すぎると受け付けてすらもらないわけ。そういうところが嫌で僕はこの家を出たんだよ」  温厚で平和主義の父は唯一マトモな人間だったため追い出されたのだった。  系図上では神主の弟と姪にあたるあたしたち親子だが、縁を切られているため親戚枠に入らない。  おかしい点はほかにもあった。  ほとんどの子供や子連れは一つもゲットできずに終わる。その間の前で「こんなに手に入れた」と自慢する高齢者や金持ちの多いこと。悪質さに泣き出す子までいた。  そんな子供に対して何をするかというと、
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