第二章

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「うるさい! 親のしつけがなってない。代わりに教育してやろう。こうするんだ。子供は一度痛い目にでも遭わないと分からない」と言って殴ろうとする者。 「そもそも子供が来るな。邪魔だ。子連れで来るなど非常識め」と怒鳴ったり保護者を恫喝する者。  境内には悪意が充満し、人々の様子も普通ではない。  毎年警察が出動する騒ぎにも関わらず、「『生き神様』のおられる神社なのだからいつものこと」と誰もが思っていた。……不気味だった。  それ以降一度も父の実家に行かぬまま取り潰しを迎えた。 「たくさん手に入れた人が偉いなんてないのにね」 「ん?」 「別に。ちょっと思い出しただけ」  今思えば祭神である自称『生き神』が人々に影響を与え、敵意や悪意を増幅させていたんだろう。わざと競争心を煽り、負の心を生み出させて自分の力にしていた。 「さて、上弦さんはどうかな? ……あらら、仏頂面」  子どもに泣かれると満場一致の上弦さんは強制的に狼の姿に戻され、狛犬代わりになっている。「初詣の時に爆弾見つけたお手柄ワンちゃん」って表彰状もらい、すっかり有名犬だ。 「あっ、ニュースになってたワンちゃんだー」 「かわいーい。いい子だねー」 来る人来る人に褒められ撫でられ。大人しくしてるよう九郎に厳命されてるから必死で耐えてる。 「それがしは犬ではなく誇り高き狼だというのに……っ」  ブチブチこぼしてるが妖の声なんで人間には聞こえない。 「まぁまぁ。ニュースになったお手柄ワンちゃんがいるって効果あるのよ。いかつくて強面の上弦さんならではの見張りっていう大事な役目じゃない」 「……ふん。きさまの意見など聞いておらん。それがしは九郎様のご命令であるから見張りを務めているまで」  あ、照れてる。  上弦さんて高飛車だけど根は良い狼なんだよね。扱い方がだんだん分かってきた。  これまで周囲から嫌われてばっかだったから、たくさんの人から褒められて実はうれしいんだな。 「素直じゃないなぁ。クーデレってやつ? はい、ごほうびの犬用骨ガム」 「それがしは狼だと言っとろうが!」  吠えたものの、ちろっと骨ガム見てる。  長く封印されてて見たことなく、興味あるな?  ほい、ほい、ほーい。わざと上下左右に動かしてみせると頭が追う。面白い。  よこせと言わんばかりにぱくっと取られた。  一瞬「!」って表情。 「…………」
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