匂いの研究

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 あんなに嬉しそうな電話を貰ったその四日後、会社の研究室で亡くなっているのを発見されたのだ。日曜日に出社して研究室で仕事をしながら、そのまま亡くなってしまったらしい。休み明けの月曜日に出社してきた社員が彼女の死体を見つけて大騒ぎになったそうだ。  死因は急性心不全だった。日曜日に出社していたということで、過労死の疑いも取りざたされたが、直近一か月ほどは特に多忙でもなく、毎日ほぼ定時に退社出来ていたそうだ。たまたま何か用事があって日曜日に出社して作業している最中、急性心不全を発症したということらしい。いずれにしても、順風満帆の中での急逝には、私自身も含めて、誰もが驚きを隠せない様子だ。  お棺の中の涼子の表情は、本当に穏やかで、微笑みさえ浮かべているように見えた。全力で打ち込んでいた研究が完成したと言っていたが、そのことに満足していたのだろうか。  でも、まだ三十路に入ったばかりで死ぬなんて、絶対早すぎるよ!涼子のバカ!またあたしの家で沢山お喋りしようって言ったじゃない……  彼女の安らかな死に顔が、見る見るうちに涙でぼやけてきた。  お葬式から帰って来た私は、一人暮らしのリビングで着替えもしないでぽつねんと座り込んでいる。まだ全然、実感がわかない。  涼子との日々を振り返りながら、最近彼女と交わした会話を一つずつ思い出す。 「目に見えないものを完全に分離して、別の存在として独立させて保存するんだから……」     
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