匂いの研究

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匂いの研究

 今日、久しぶりに涼子の家に遊びに行った。  タカビーフーズで開発部門に勤める彼女は、遊びに行くと新製品の試供品とか、珍しいものを味見させてくれる。もう十年来の付き合いになるが、これが私にとって、涼子家訪問の楽しみの一つなのである。  淹れて貰ったお茶の一杯目を飲み終えたあたりで、彼女が切り出した。 「和美ってチョコ好きだよね」 「うん、好きだよ」 「ちょっと珍しいものを手に入れたのよ」  そう言って、冷蔵庫から何やら銀紙に包んだものを取り出してきた。 「これね、この間リヒテンシュタインに行って来た人のおみやげなの」 「ふーん……」リヒテンシュタインって、どこだっけ……確かヨーロッパの小さな国だったような……でもどこら辺にあったか、今一つ思い出せない。 「途中まで食べちゃったけど、珍しいものだから、和美にも一口あげようと思って残しといたの。結構いけるよ」  そう言って、自分もひとかけら口に入れながら、差し出してきた。見た目は普通の板チョコに見える。黒っぽい色は何となくビターな味わいを予想させる。 「ありがとう」  ダークなチョコは私の好物だ。遠慮なく端の方を折って、口に入れた途端、 「げっ!」     
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