匂いの研究

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「そう、例えば薔薇の花から香りだけを分離して別の容器に保存しておく、とかね。生花を放っておけば、すぐに花は枯れてごみになってしまうし、香りも消えてしまう。でも、香りを分離すれば、それだけを別容器で長期保存できるし、一方、香りの抜けた花本体も、ドライフラワーにすればちゃんと使い道がある。色んな活用法があると思うのよ」 「なるほどねえ。それ面白そうじゃない?技術的にはどうなの?」 「それは、簡単ではないわね。何と言っても、匂いは目で見ることが出来ないからね。目に見えないものを完全に分離して、別の存在として独立させて保存するんだから、そこが一番難しいわね」 「確かにそれって、難しそうね」 「でもね、私は必ず出来ると信じてるの。大げさかもしれないけど、技術革新の歴史を見てると、諦めずにコツコツ続ける者には、必ず最後に神様が微笑んでくれるのよ。今回一応食品で成功したんだし、他の分野でも絶対上手くいくわ」 「なるほどねえ。そうなるといいね」  タカビーフーズの「エアカレー」は、物珍しさも手伝って、順調に売り上げを伸ばしていった。勿論価格の安さも大きな要因だったと思う。気を良くした会社は、約一か月後、第二弾として蕎麦屋の匂い「エアヌードル」の発売も始めた。プロジェクトリーダーとして、涼子の社内的な評価も上がったようだ。まずは順風満帆といったところだろう。  そんなある日、夜中の12時ごろ、いきなり涼子から電話があった。 「もしもしぃ、和美ぃ」  間延びした彼女の声が受話器から響いてきた。 「何よ、こんな夜中に」     
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