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プロローグ
平成31年1月29日。
平城山(ならやま)エリは目黒川沿いにあるお洒落なカフェに一人で座っている。
店全体はアンティーク調で統一され、家具や小物までが海外から取り寄せたと思われる強いこだわりを感じさせる。
周囲を照らす照明もビンテージもので、そこから溢れる光は暖かく、一人で過ごすには最高の居場所だった。
エリはこの店をとても気に入っていた。
店内には天井から大型テレビがぶら下がっており、この一週間で幾度となく報道されているニュースが流れている。
「またこのニュースね……」
エリは一人ごちた。
「二年ほど前より、世界各地で出現が確認されている『黒の卵』が、先日、日本でもその存在が初めて確認されました。連日、幾度となく番組でもお伝えしておりますが、この卵のように見える真っ黒な物体は、突如として現れ、制限時間内にその中へ入る者を一名のみ『選択』しなければならず、そして、その『入室者』は必ず死ぬ、とされております。今回も他の事例と同様に『シャボン化』が発生したとのことで、その『記憶』を巡って、警察が関係者の事情聴取を始めています。この物体の出現理由や動機、条件などはいまだ解明されていません。なお、被害に遭った男性の名前は……」
「タツヤさん……」
エリはそう呟き、大きくため息をついた。
その男は正体不明の黒い物体の中で微笑みながら死んでいった。
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