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達也は応接室へ案内され、ソファーに腰かけた。座り心地のよいソファーは、彼女の優しさのようにほっとさせてくれた。しかし、今の一瞬の間は何だったのだろう。特に気にすることでも無さそうだけど、フケなどが付いているのかもしれないと思い、スマホの画面を鏡代わりにして覗き込んでみる。 「失礼します」 扉をノックする音が聞こえた。スマホの画面を思いっきり凝視していた達也は「はいっ!」とおもむろに立ち上がり、襟を正した。 入ってきたのは、20代半ばくらいの若い女性だった。ロングの髪を後ろで束ね、少しつり上がった目じりが印象的で、ツンと伸びた小ぶりの鼻と対照的にぷっくりとした分厚い唇が妙に色っぽかった。職業柄なのか最低限のメイクをしているのみだったが、その素朴さがむしろ彼女には似合っていた。 一言で言うととても綺麗だった。 「どうか、されましたか?」 「あっ! いえ、すみません。ほ、本日は、弊社の商品を選んでくださりありがとうございます。私、平城山達也と申します」 しまった。つい見とれてしまった。慌てて気持ちを切替え、名刺を渡す。 彼女は少し不思議そうな顔をしてたが、特に気に留める様子もなかった。 「平城山さんですね。よろしくお願いいたします。私はこういう者です」 なんとも古風な言いまわしで、彼女は自分の名刺を渡してきた。 少し天然なのかもしれないな、そう思いながら丁重に名刺を受け取った。 満開の桜がプリントされた名刺は、彼女によく似合っていた。「名刺はその人の顔だ」とは良く言ったものだ。     
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