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「こちらで手続が終了になります。本日からお二人は正式なご夫婦になります。おめでとうございます」
市役所の職員が微笑みを浮かべながら、事務的な口調でそう言った。
仲邑(なかむら)サエリは、この日、人妻になった。
本来ならば、とても喜ぶ場面なのに、隣に座っている男は少しも嬉しそうではなかった。
サエリは「ありがとうございます」と職員にお礼を言い、精一杯の愛想笑いをした。
夫との出会いは、1年ほど前に友人のミユキに誘われた「ハイスペック合コン」だった。
合コンの席で、男たちが自らのハイスペックを必死でアピールしている中、一人静かにお酒を呑み、どこか遠い目をしている彼が気になり、サエリから声を掛けた。
彼は高学歴で、大手の会社に勤め、多額の貯蓄を蓄えていた。見た目も中の上くらいはあり、品のある服装もとても彼に合っていた。交際を始めた時、彼のスペックに目が眩んだ訳ではないと周囲には説明したが、本音で言うとそれはとても「魅力的」だった。
しかし、彼はとても寡黙な人だった。一緒にいても、あまり自分の話はせず、楽しいのかつまらないのかもよく分からなかった。ただ、サエリの話はよく聞いてくれる人だったし、何かを提案してもそれに反対することはなかった。高級なレストランにも、事あるごとに連れて行ってくれた。
結婚を意識するようになり、彼の寡黙な態度は気になったが、これ以上ハイスペックな男性が現れることもないと考え、結婚に踏み切った。
しかし、結婚をしてみて分かったことがある。彼は寡黙というより、ただ自分に「無関心」なだけだった。考えてみれば、連れて行ってくれたお店も、「私のため」というより、「どんなお店か気になったから」という意味合いだったように思える。何をするのにも反対しないことも、単純に自分に関心がないからだということも後にわかった。
ミユキに相談した時は「口うるさいよりマシじゃない。旦那なんて、モノ言わないのが一番よ」と言われた。
自分だって物足りなさを自覚しながらも、彼のスペックに魅せられて結婚した訳だから文句なんて言えない。でも、それでも、心にぽっかりと空いた穴は日を重ねるごとに大きくなっていた。
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