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平成30年4月。 新年度を迎え、仕事も多忙を極めていた。 幼いころから人の役に立ちたいと思い、短大を卒業して介護の仕事に就いた。 介護の仕事は「ありがとう」と言われることが多く、仕事に就いたばかりの頃は心の中がやりがいで満ち溢れていた。しかし、最近ではその温かさに触れるたびに、冷えて固まっていく心を感じていた。 「こんなに温かな人が沢山いるのに、家に帰ると無機質な男がいる」 じわじわと負の感情がサエリを蝕んでいた。 違う。決して夫への愛情を失った訳ではない。まだやり直せる。そう思っていた。 「仲邑さん」 「は、はいっ!」 突然背後から声を掛けられ、サエリは小さく飛び跳ねた。 同僚の福増さんだった。 この人は、一見大らかで人当たりが良いが、同性(特に若い女性)には手厳しかった。男性が見ても、福増さんの本性には気づかないだろう。 「今日、浄水器の設置の件で営業さんが来られるからね。仲邑さん、応対よろしくね」 「えっ、それ、福増さんが担当するって話……」 「何か言った?」 「いえ……なんでもありません、分かりました……」 「じゃあ、あとの手続きなんかもよろしくねー」 福増さんはとても愛想の良い笑顔で、手の指をヒラヒラさせながらホールへ消えていった。 福増さんは独身だった。 元々、女性には厳しい人だったが、まだ自分が独身だった頃はとても良くしてくれていた。しかし、大手企業勤務のサラリーマンと結婚すると話して以来、態度が変わった。直接的な嫌がらせはしてこないものの、何かにつけて仕事を押し付けてくるようになった。 サエリが更衣室で着替えていた時も「結婚している人って、そんなに偉いのかねー!」と自分に聞こえるような声の大きさで同僚と話していたこともあった。 「そんなだから結婚出来ないのよ」 サエリはぼやいた。
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