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それに西嶌が気付き、夜の徘徊の件も含め、安村を問い詰めた。安村は睡眠薬はあくまで自分用だと言い張り、徘徊の件はトレーニングのため、その付近をジョギングしているだけだと説明した。いずれも確証はないため、その場はそれ以上追及出来なかった。しかし、安村は危険だと西嶌が人事部に持ち掛けてくれた。 実際に被害があった訳ではないため、人事部も処分は出来ないとし、せめてもの配慮で、安村は県外の支店に配属された。西嶌がどういう風に人事部に話を持ち掛けたのかは分からなかったが、新人ながらそこまで出来る西嶌にエリは信頼を寄せるようになった。 あれから4年が経ち、エリも入籍し、引っ越しをした。会社から5駅ほど離れた閑静な住宅街にあるマンションだった。会社までは、電車での乗り継ぎが一回あるが、一時間ほどで着く。郊外のため、家賃も破格の安さだった。本当は戸建て住宅に住みたかったが、夫が乗り気ではないため、話が進むことはなかった。 また、結婚を機に連絡先も変えた。安村とは既に疎遠だったため、教えることはしなかった。 「人事も当時のことを忘れたのかなー」西嶌が窓の外を眺めながら言った。その言い方は誰かに怒っているように聞こえた。 「私もあの頃、結果的に安村君に何かされた訳じゃないし、あれから連絡取ったり、会ったりもしてないし、それに今はもう結婚してるし、大丈夫だよ」 「そう思えるエリは強いな」 「強いかな? 本心よ」 「何かあったら、すぐ俺に相談しろよ」 西嶌は真っ直ぐにエリの顔を見て、そう言った。本当に頼りになる同僚だった。
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