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3 2人が会社に着くと、安村は上司の山本に連れられて挨拶回りをしていたため、自席にはいなかった。 その後、朝礼が始まった時に安村は姿を現し、皆の前で挨拶をした。 安村は4年前と変わらず若干の肥満体型をしていたが、髪型や着こなしは今時のトレンドに乗っており、かつての地味さは感じなかった。 「この4月からお世話になります、安村タダシです。精一杯皆さんのご期待に添えるそう頑張りますので、よろしくお願いいたします」 端的な言葉に込められた力強さは、この4年間、仕事に邁進してきたのであろうという自信を感じられた。 あの頃の安村とは違うと思わされた。隣に立っていた西嶌も「何か変わったな……」と小声でささやいてきた。 朝礼終了後、安村は真っ先にこちらに向かってきた。 「エリ、久しぶり。元気にしてた?」 安村は見違えるほど清閑な顔つきでそう言った。 「ええ。元気よ。安村君も元気そうね」 「うん。出先の支店ではかなりシゴかれたけど、おかげで自分に自信が持てるようになったんだ」安村はチラリと西嶌の顔を見た。人事部に告発したことを知っているのであろうか?西嶌も一瞬眉をピクリとさせていた。 「エリも西嶌も結婚したんだってな」安村は特に気にする素振りもなく、そのまま話を続けた。 「ああ。エリは2年前に、オレは去年にな」 「おめでとう。それから4年前はエリに悪いことしたね。ずっと謝ろうと思ってたんだ」 「もう、いいよ」丁寧に頭を下げてきた安村に驚く。 「頭を上げろよ、安村。そんな風にしてたら、何も知らない周りの人が、変な風に思うだろ」 「そうだね。でも、本当にごめん。……じゃあ、オレは行くね。2人ともこれからもよろしく」 気味が悪いほど清々しい安村の態度に「大丈夫そう、だな……」と西嶌が小声で囁いてきた。 「そうね……」 エリに対する嫌がらせが始まったのは、それからひと月後だった。
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