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その後、徐々に距離が開き始め、普段の会話もどこかトゲのある言い方をエリからされるようになった。今では肌を触れることさえしていない。 目立った喧嘩をするわけでもないし、一緒に出掛けることもするし、笑うこともある。 もしかしたら、原因なんて特になかったのかもしれない。あるとするのなら、あの男の件で心配するより興奮してしまったことくらいだ。それもエリには悟られていないはずだった。今のようになった原因ではない。 ただ、互いの些細なすれ違いが、見えない溝を作っているのだろう。結婚とはそういうものなのだ、そう自分に言い聞かせている。だから、このまま夫婦生活を続けることに異論はない。しかし、近頃、強く思うことがある。 愛人が欲しい。 このまま、妻も抱けずに、誰も抱けずに、歳だけ取っていくのは嫌だ。 お互いに守秘義務を遵守できて、自分を認めてくれて、依存し過ぎない、適度な距離感を保てる人。そんな都合の良い人なんている訳ないし、自分だって本当は不倫を心から望んでいる訳じゃない。出来ることなら妻と上手く行く方が良いに決まっている。でも、それが出来ない。 終わりのない無限ループにハマっていることに自覚しながらも、漫然と日々を送っている。 そんなことを考えながら、次の営業先に着いた。今は仕事中だ。達也は大きく息を吸い込み、「よし」と短く言い放った。     
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