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道に迷っておきながら、穏やかな気持ちで青空を眺めていた。
眠っている間、恵鈴をそばに感じていたおかげだろうか。探していた彼女は、俺がピンチになると必ず向こうからやって来る。それは昔も今も変わっていない。嬉しくて、つい笑みがこぼれた。
どんなに頑張っても、俺は俺のままだ。どこか抜けていて、すぐ迷子になるし、臆病で他人の言うことを素直に聞けず、それに壁を作る。
人の中にいても孤独に閉じ籠る。
だから道にも迷う。自分が元居た場所に留意しないのだから、帰れなくなってもしょうがない。そうとわかっているのに、俺は相変わらず間抜けだった。
気の向くまま歩いて、気付くといつも思いも寄らない場所にひとりでいることに驚き、動けなくなることが何度もあった。親父もおふくろも、そんな俺を心配していたが、恵鈴がまっさきに俺の居場所を教えていたと聞いている。
もしかして、昨夜も恵鈴がそばに来てくれていたなんてことはないだろうか?
今頃、尊美さんは血相変えて俺を探してくれているに違いない。
俺は立ち上がりゆっくりと歩き出した。三歩目で眩暈を感じ、五歩目でそこらへんの樹にしがみつく。タオルを見るけど、血は止まっている。おかしいな、と思いながら自分の身体の声に耳を澄ませてみた。その時だ。
聞こえた!
俺の名前を呼ぶ、声がした!
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