第4章 君と笑顔の花を咲かせたくて

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 だけど、声が出ない。  すぅっと空気が抜けていくだけで、声にならない。何度試みても同じ。声は出ない。  俺は木の根を乗り越えながら沢へと降りていく。枝や幹に掴まって、グラグラとゆれる目の前の風景に負けないように、歯を食いしばる。  声が近い。  尊美さんの声だ。間違いない。  一歩、一歩、前に出る。どんどん体が重くなる。  空がまわりはじめ、森の木々も、なにもかもが激しく渦巻いている。  力が入らなくて、たぶん転んでしまった。  そしてまた、昨日の右手の傷が痛み出す。 「燿馬くん!!」  視界のはじっこに見覚えのある顔。だけどすぐ目の前は真暗になった。  貧血だろうか。音も、感覚もあっという間に俺を置き去りにした。    ♢  それから途切れ途切れに、霞む視界の中で何人もの人々の顔が見えた。でも、誰一人俺の知らない顔ばかりが並んでいて、自分がいまどこでなにをしているのかも、俺はどこから来てどこへ向かって行こうとしていたのかも、思い出せない。  赤い血と共に何か大事なものが抜けて行く。そんな奇妙でうすら寒い感覚に包み込まれて、ちっぽけな虫にでもなってしまったようだと、思った。  冷たい白い布が敷かれた固いベッドで、指先一本も動かせなくなって、自分の意思では目も開けられず、まるで死体にでもなった気分でいると、滑らかな引き戸が動く音が聞こえた。何人かいる。 「………!!」  誰かが喋っている。でも、水の中に潜っているような遠い音過ぎて、聞こえない。甲高い声が途切れとぎれにやってくるから、たぶん女……。
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