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痛いぐらいに胸が締め付けられる。
彼女の手に包み込まれた俺の顔だけが熱を帯びていく。凍えそうなほど寒い明け方の森で感じた青臭さや腐葉土の匂いが、かき消されて行く。
「……良かった」
か細い声と吐息混じりのつぶやきが、紛れもない俺の大事な存在であることを証明していた。もう長い間聞きたくても聞けなかったその声は、震えている。
「もう……。心配させないで。危なっかしいなぁ」
突如。
俺はありったけの力で、恵鈴を抱き寄せた。非難めいた短めの悲鳴が上がったが、そんなことはお構いなしだ。
もう離さない。離すもんか!
病院のベッドであることも忘れて、どれだけの人が俺達を見ているのかも気にせず、彼女の細い身体を引き込んで組み敷くと、恵鈴は観念したかのようにくったりと力を抜いた。
見上げてくる両目の瞳の色をじっと見降ろす俺の頬に、すうっと手が伸びる。
「……私を探してくれていたの?」
「ば……」
掠れるどころか声にならない声で、俺は躊躇した。
「声が出ないの?」
頷く俺に、恵鈴は涙を浮かべながら微笑む。ずっと探していた笑顔が、今目の前にある。
身体が揺れるほどに、震えていた。自分の意思でコントロールできないほど、俺の体は熱に浮かされて夢見心地に。
「燿馬。山で発見されてから丸二日間、眠っていたんだよ。私、大急ぎで帰国してついさっき着いたところなの」
朦朧とする頭で聞いても、なにがなんだかさっぱりわからない。恵鈴はゆっくりと起き上がり、ほぼ正座に近い格好の俺の顔に顔を寄せてきた。額に手を当てると、その手の温かさに対して指先が冷たい。
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