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喋れない俺は恵鈴の勘の鋭さに、また否応なしに頼らざるを得ないことに一抹の不満を覚えた。反らした視線の先に自分からピントをあわせにくる恵鈴の健気さが、小さい頃のままで懐かしい気持ちにさせる。
「……ごめんね」
「………」
「急に姿を消しておいて、何を言えば良いのか……。本当は、再会するのすごく緊張した。良く考えたら私、燿馬をひとりぼっちにしたんだね」
俺は首を振る。
ひとりぼっちにさせたのは、俺の方だ。
「会いたくなかった。……しばらく、徹底的に燿馬から離れて生きていけることを自分に証明したかったの。だって、そうでもなくちゃ私はいつまで経っても中途半端だから。自分への戒めのために、燿馬とは会っちゃいけないんだって言い聞かせて……」
そこまで言うと、さっきよりもずっと大粒の涙が恵鈴の頬を転がり落ちた。
俺の好きな泣き顔。全身にあの身を切られるような痛みが襲う。
恵鈴が立ち上がり、俺の両肩を掴んでベッドにそっと押し倒す。枕に頭を沈めながら、俺を見下ろす真剣な顔の恵鈴をぼんやりと眺めていた。
怒ったり笑ったり、悲しそうかと思えば勇ましささえ感じさせる表情からは、以前には無かったある種の強さを感じさせた。
「相談しようにも、何を言えば良いのかわからなかった。あの頃は、目が視えなくなる不安と焦りで心が支配されて、燿馬の気持ちにまで気が回らなくなっていたの。心配かけて、本当にごめんなさい」
俺はただ頷いて黙っているしかない。
こんな時、声が出なくて良かったんだと思う。俺は、つい恵鈴が話しているところを遮って自分の考えを口走ることが度々あった。
「……目は、この通り視えるようになったんだよ。思った通り、精神的な問題で視力を失いかけていただけだったみたい。それにね、スランプだったけどまた絵が描けるようになったの。やっぱり私には絵を描くことが一番向いてるんだなって、そう思ってるんだ。今は」
俺は頷いた。
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