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熱にやられている頭では、まともに反応することもできない。俺はどこか遠い国で起きている出来事のように感じているのかもしれなくて、ただぼんやりと恵鈴とおふくろ、そして親父と真央さん、いつのまにか尊美さんが増えているのを見渡した。
夢だったらどうしよう。
小鳥のさえずりや小川の流れる音、木々のざわめき、足場の悪い河原の大きくて荒々しい石の姿をありありと思い浮かべた。
子供の頃、道端の草を観察するために座り込んで、おふくろと恵鈴が俺を見守っていたあの懐かしい光を感じる。
大人になんかなりたくなかったな。
男女だとか、兄妹だとか、生計を立てるだとか、そんなことどうでも良かった。
戻れるものなら戻りたい。
悩みのない純粋で無垢な時代に。
怖くなって動けなくなっても、おふくろと親父が守ってくれた。
俺がどこにいっても必ず見つけてくれた。
迎えに来てくれた。
遠い、遠い、あの頃が近くなっては遠ざかる。紙飛行機に乗った気分で、過去と現在を行き来している。
「戻っておいで。ようちゃん」
おふくろの声がする。
「ママに心配かけちゃダメだろ! 燿馬」
親父の声だ。
「ようま! 離れていても私が必ずようまを見つけてあげるからね」
色素の薄い澄んだ瞳で俺を包み込む、えりん。
一人で頑張るだなんて、そもそもハードルが高過ぎなんじゃないか。
情けなさまで涙と一緒に溢れて、どうしようもなく咽び泣いた。いや、実際はただ目を閉じて、吹き付ける強風に耐えるしかないのだと観念したに過ぎない。
「なんて顔してんだよ?」
親父は呆れながら、俺の髪をくしゃりと掻き回した。
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