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いくつかの検査をうけて、健康であることが証明された。切り傷は消毒と縫合テープで固定されて、おふくろの不思議な力で痛みはだいぶと和らいだ。
知らない間に腰にも裂傷ができていて、俺は何度か転んだらしい。やばい。覚えてない。
みんな、気を使ってくれたみたいで。俺が落ち着いたタイミングで、恵鈴だけが残った。
「大丈夫?」
「全然だめ、だいじょばない」
不自然なほど距離を置いたまま、俺たちは互いの腹を探り合うように見詰め合う。
なんで黙って消えたりなんかしたんだよ?
どうして失明するかもしれないと、話してくれなかったんだよ?!
そんなに、頼りないのか?
そう言いたい気持ちをぐっと抑えていると、恵鈴が震える声で話し始めた。
「心配かけてごめん。心配させまいと思ってたのに、返って沢山心配かけることになって、本当に、本当に、ごめんなさい……」
わざとらしいぐらい頭を下げ、謝る恵鈴の頭を見下ろしながら、情けなくなった俺は。下唇をぐっと噛んだ。
泣くな。……そう、自分を鼓舞する。
「やめろよな」
やっと出した声が、やはり震えていた。
カッコ悪いったらないや。
でも、これが俺だ。
「謝るな。自分で決めた道なんだろ? だったら俺に遠慮なくやりたいようにやれば良いんだ。俺だってな、やりたいことのひとつやふたつあるんだから……」
言いながら、涙がポロリする。
「縛り合う関係なんか、俺だって望んじゃいない。お前は、お前だけのためにわがままに生きていけ。俺も、そうする。人生は1回きりだしな」
恵鈴が立ち上がった。涙でグチャグチャになった顔をしながら、俺のベッドに投げ出すようにして号泣し始めた。
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