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「もう、しょうがない子ね。それが恵鈴なんだもの。ようちゃんだってよく知ってるわよ」
「これがあるから、お前たちは他の誰かに気持ちが向かわないんだしな。ま、しょうがない」
ママとパパが交互につぶやいた。
「毎回って、なかなか大変なのね」
真央さんがギョッとしている。私は恥ずかしさと情けなさで下唇を噛み締めていた。
「痛み止め飲んでるから、大丈夫よ。きっと」
ママの励まし方はいつもこんな感じだ。なんだか懐かしくて胸がいっぱいになる。
「で、どうする? 皆で病院には泊まれないんだ。恵鈴に任せても平気か?」
パパが私の頭を撫でながら優しく聞いてくれた。
「うん」
三人とも静かに微笑んでから、荷物を持って部屋を出て行った。
今度こそ二人きりになれた。
燿馬の寝顔を改めて良く見ると、頬がこけた気がする。目の下の隈も濃いし、顔色も悪い気しかしない。
私は壊れ物を扱うように、燿馬の右手をそっと握った。骨ばった長い指に頬ずりして目を閉じる。
離れてるときも、傍に寄り添うときも、私の心の中ではいつも勇払の浜辺に咲いた野薔薇が見えていた。
あれは私達の花だよ、そうでしょ? 燿馬。
一緒にいる姿を誰にどんな目でみられようと、荊棘の蔓のようにしっかりと繋がっている私達だから、きっと大丈夫。遠く離れてみてやっとわかったの。
「迷子の燿馬をちゃんと見つけてあげられて、ホッとした。北極星を見つけるより速く、燿馬の居場所がわかるなんて、私達ってやっぱりすごいよね」
静かに眠る顔を眺めながら、考える。これからのことを。
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